横浜地方裁判所 昭和59年(ワ)54号 判決 1984年4月27日
原告
青山吉宏
被告
藤京作業株式会社
右代表者
斉藤マサ子
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、七〇万円を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は昭和五五年三月二六日に被告会社に就職し、同五六年五月二五日に同社を任意退職した。
2 原告が被告会社に対し、昭和五六年六月一五日ころ、雇用保険法施行規則(以下「規則」という。)一六条本文に基づき離職証明書の交付を電話で請求したところ、被告会社はこれを拒否(以下「本件拒否」という。)した。
3 原告は、本件拒否により、昭和五七年五月末までに支給されたであろう雇用保険金合計七〇万円(平均月収の六割の八か月分として概算すると、右金額となる。)の支給を受け得ず、右同額の損害(以下「本件損害」という。)を被つた。
4 よつて、原告は被告に対し、七〇万円の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2、3の事実は否認する。
理由
一請求の原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二原告主張の請求の原因2、3の事実は、これを認めるに足りる証拠はないのみならず、以下に述べるとおり、仮に本件拒否の事実があつたとしても、そのことから直ちに本件損害が発生すると解する根拠は全くなく、原告の右主張は主張自体失当であるといわなければならない。
原告主張の雇用保険金とは、雇用保険法(以下「法」という。)一〇条二項一号にいう基本手当と解され、また、右基本手当の受給資格を有する者(以下「受給資格者」という。)とは、雇用保険の被保険者が失業した場合において、離職の日以前一年間に、法一四条の規定による雇用保険の被保険者期間が通算して六か月以上である者をいう(法一三条)ところ、基本手当の支給に関する法及び規則の規定に照らせば、受給資格者が基本手当の支給を受ける権利は、当該受給資格者が法及び規則に所定の手続を履践し、かつ、公共職業安定所長(以下「職安所長」という。)が右受給資格者の失業したことを認定した上で、同人に対し基本手当の支給決定をすることによつてはじめて具体的に発生するものと解するのが相当である。してみると、本件拒否があつたというだけでは、原告主張の雇用保険金合計七〇万円の支給を受ける権利が発生し得ないことは、明白であり、原告の主張はその前提を欠くものであつて失当であるといわなければならない。
また、受給資格者は、失業の認定に先立ち、職安所長から離職票の交付を受けなければならず、離職票の交付を請求するに当たつては離職証明書を添えなければならない(規則一七条一項二号、三号)が、受給資格者は、やむを得ない理由があるときは、離職証明書を添えないで職安所長に対し離職票の交付を請求することができる(同条三項)のであるから、原告は、仮に本件拒否があつたのであれば、職安所長に対し、かかる事情を説明して、基本手当の支給のための所要の手続を履践することは可能であり、本件拒否があつたからといつて、基本手当の支給を受け得なくなる筋合いのものではないというべきである。よつて、原告の主張はこの点においても主張自体失当であるといわなければならない。
三以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(吉戒修一)